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マット・アバド。写真家の舞台は世界。ノマド的生きかたこそが真骨頂。

「いいね!」が世界のモデル図鑑

 

 マット・アバド。ネット上では@badboiとして知られる。詳細のプロフィールは見つからないのだが、インスタでの昨今の活動場所は東京。

 ネットを検索すると「彼の作品は、はっきりとカリフォルニアの雰囲気をたたえています」とか「現在、イタリアのカプリ島で仕事をしています」とかいわれているので、世界中で仕事をしてきたのだろう。

 

 

 プロフィールではっきりしているのは、フィリピンで生まれ、10代前半で渡米。ヒップホップに惹かれて10代でプロダンサーになり、2014年から写真の仕事をしているということ。という情報から、恐らく、年齢は30代前半と想像する。

 

 自身のサイトの情報によると、アディダス、プーマ、アシックス、ティンバーランド、ニューバランスなどなど、世界的なクライアントが並ぶ。

 

 撮影してきたモデルたちも世界中にいるわけで、インスタの「いいね!」をチェックするだけで、世界のモデル図鑑ができるくらいなのだ。

 

被写体が存在する場所

 

 現在は日本で活動中と明記してあるし、日本人との交流も多いようだ。インスタの写真に頻繁に登場するモデルは、@moni_sahaと表記される佐原モニカ。勝手な想像では、ふたりは個人的な関係があるのではないかというくらい、彼女はやたら美しくて、かわいい。モデルというより同志なのではないか? と、勝手な想像。

 

 

 どんなモデルを撮っても、彼の写真の重要な要素は、その背景にある。彼女がいる場所。彼女が存在する場所のイメージこそが、写真家の大切なテーマなのである。

 

 

 写真家の存在するべき場所は、世界の「あらゆる場所」なのだということがよくわかる。それは具体的な空間ではなく、彼のイメージする「世界」ということだ。

 彼自身、こんなコメントをしている。

 

「私の目的地はもはや場所ではなく、新しい見かたです」。

 

 ネットが名刺とかブック(作品集)なのだから、住んでる場所とか電話番号なんて、もう必要ないのだ。インスタグラムの登場で、カメラマンのビジネスが大きく変わったのだということを、痛感する。

 

灼熱のエロス

 

 インスタに投稿している彼の写真の特徴は、Y(イエロー)に転んだ空気感だ。灼熱とか乾燥とか熱帯夜とかを思わせる世界観。そして、透明感のあるブルー。これがマット・アバドの写真世界だ。たとえば、草津温泉の湯畑が幻想世界になってしまう色彩センスとデジタル処理に、彼の写真の方向性がよくわかる。そこにミューズたちがたたずむと、独特のエロティシズムが漂うのである。

 

 

 写真の持つ色味の大切さということを、彼は大胆、かつ戦略的に理解しているのだ。独特な色づかいに満ちた写真からは、そのシーンのざわめき、ビートのきいた音楽、野生の息づかいさえ聞こえてくる。彼の写真には、濃厚な空気が写りこんでいる。

 

 

 そして、マット・アバドは、地球の抱えているさまざまな問題を警告する。彼の写真世界から素直につながっている危機感だ。灼熱の黄色と透明感のあるブルー、その向こうに広がっている空気感。でも、現実の世界は、そんなに甘いものではないのですよ、と、彼は私たちに問いかける。

 ノマドのように地球のあちこちを旅しての、彼の実感なのだ。そして、それは恐らく、いまの時代のもっともシャープな「見かた」なのだと思う。